川島織物セルコンのSumiko Hondaブランドを牽引するテキスタイルデザイナー・本田純子さんは、デザイン画から、糸の選定と色出し、織物設計まですべてに携わる類まれな存在。
四季の移ろいをテーマにした、本田さんのつくり出すファブリックの清々しく美しい色と質感は、糸が何種類も組み合わさり、陰影を含み、見るものを一瞬にして魅了する。
インテリアの世界に新しい息吹を吹き込む織物の可能性と魅力を、本田さんに余すところなく語っていただいた。
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織物設計から仕事をスタートしたことで 織物のすべてを知るきっかけに |
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本田さんは、デザイン画から糸の素材と色の選択、織物設計に至るまで、すべてに一貫して携わっていらっしゃるとお聞きしました。テキスタイルデザイナーでそういう方は珍しいんですね? |
そうかもしれませんね……私は、「日本の四季を愛でる」というコンセプトで、四季折々のイメージに寄り添い、そこから感じられるモチーフを手で描き、織物を組み立てています。最終的な織り前での確認も含め、すべての工程において関わっています。
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そういった独自のやり方でお仕事を進められるようになったきっかけは、何ですか? |
もともと私は、武蔵野美術大学時代に、テキスタイルを専攻していました。大学ではすべての工程に関わり、手作業で織物をつくり上げるのですが、織物会社に入ると、そこはすべて分業になります。私自身は、織物の設計の仕事を行うという名目で入社しましたので、当初は、他のメンバーが描いた絵を織物に組み立てるという仕事に十数年従事しました。
そんな私が、デザイン画から関わるようになったきっかけは、上司がブランドを立ち上げ、「デザインから描いてみたら?」と勧めてくれたからです。
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Sumiko Hondaブランドの織り糸を拝見しますと、光沢や色、質感がとても美しいのですが、こういった糸の素材・色を決定する際のご苦労をお教えください。 |
それがとても幸運といいますか、当社は染めも京都にある自社工場で行っていますので、色出しや素材の選定について、私はあまり苦労をしたことがないのです。
デザインの原画を描くときに、使った絵の具の色を色コマとして描いて、絵のまわりに残しておき、そこから、色チップ、カラーの指示等をさせていただくようにしています。描く際に使った色そのものから、独自に指定ができるので、色のぶれは少なくなります。既製のカラーチップを用いて色出しを行うわけではありませんので、この点が強みだと思っています。ふつうは手間がかかるのでなかなかそこまではできないものですが、恵まれていると思います。
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御社の職人さんの素晴らしい技術があるのですね。 |
はい。本当にそうなんです。私は「まさにこの色」というものを色指定するわけですが、職人さんたちは、指定した色だけでなくその前後の色までビーカー染色で出してきてくれます。
色は、光の加減や糸の種類で見え方が変わります。それを職人さんは心得ていて、私が指定した素材で、私が感じる色がどんな色合いなのか、ということも含め、指定した色以外にちょっと濃度を濃くしたり、色みにヴァリエーションをつけたり、あるいは明度を落としたりして、5〜6色、近い前後の色を出してくれるのです。
ですからこの時点で、すでに色についてはすごくクリアになっているとも言えます。
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肉眼では見えないほどの極細の経(たて)糸と
鮮度が高く発色の美しい緯(よこ)糸が織りなす
Sumiko Hondaブランドの世界観 |
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Sumiko Hondaのファブリックって、立体感があって、織りが非常に細かいんですね。糸の使い方も複雑で、たとえば黄色を表現されるときでも、同色糸の何種類かの糸を巧みに重ねていらしたり、ぼかしみたいな部分では織り方を変えていらっしゃったりもするのですね? |
同じ黄色を表現するのでも、今おっしゃったように濃淡をつけたり、糸の色の種類を変えたりしています。糸そのものの違いと、織物という構造物にしたときの違いとがあって、自分の指定で染めた糸をどういうふうに組み合わせ、織物として完成したときにどのような色合いにするのか、計算すると言ったらちょっとおこがましいかもしれませんが、想定しながらやっています。織物は立体ですので、どういう組織をどのように組み合わせて、密度をどうするかで、色の仕上がりが全然変わってくるんです。構造物としての色みの奥行きと言いますか・・・
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なるほど、三次元の世界なんですね。ご自身でデザイン画を描いていらっしゃるときは、そういうことをあらかじめ意識していらっしゃるのですか?それともインスピレーションが先にあって後から形に落としていく? |
私は、どうしても本業が織りですので、描くときには、最初から織りのイメージがついてきてしまいますね。どういうふうにつくるのかも含めて。最初はふわふわしたラフスケッチで、絵を描くのが好きなひとりの人間として描いているのですが、それはあくまでもファーストタッチで、次第に、織物としてどういうパターンで繰り返していくのかとか、といった構造的なことも考えつつ、描き進むようになります。
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