今回は東京都渋谷区にある一般社団法人日本塗料工業会(以下日塗工)の橋本光正専務理事と普及広報部の若林英樹氏を訪ね、塗料と塗装に関する貴重なお話を伺いました。
日ごろ近しく接しているようで、ちょっと遠い存在の「塗料」について、機能や特色、「色彩」的観点からお聞きし、またCLUB PALETTEの読者にとっても興味深い「カラーコーディネーター」として力の発揮できる部分についても伺ってみました。 |
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諸説ありますが、塗料そのものは丸太船のころ、これにタールを塗ったものが始まりといわれています。船食い虫などからの防虫保護の意味合いが強く、色彩よりは「機能」としてスタートしています。
色相といわれるものは、明治時代、船底塗料に「鉛丹(えんたん)錆止め塗料」が、非常に性能が良く普及していき、鉛丹色=錆止め塗料の色、といわれるほど、広がっていきました。
また、錆止め塗料を覆う上塗り塗料のほうは、当時は無機顔料、べんがら色・ピコエロー・チタンなどが中心として使われ、どちらかというと地味な色相が普及しており、現在のような鮮やかな色相は、まだ
なかったと思います。
(現在は鉛入り塗料は世界的に廃絶の方向で進んでおり、日塗工としてもそちらに進むように動いています。詳しくはPDFにて) |
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次は塗料の使われ方についてお聞きしたいと思います。今、塗料はどういった製品に用いられているのでしょうか? |
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車や鉄道に使われている、といえばイメージしやすいでしょうか。パールマイカやメタリック塗料を用いて何層にも塗装していきます。最初は白か黒しかなかったものが、現在は車種も増え、より色相がカラフルになりました。最近はある車種の深みのある赤などが好評を得ているときいています。
また冷蔵庫など、家電製品にも塗料は使われています。家電の出始めは、「白物家電」と言われたように白が中心でしたが、昨今ではたくさんの色彩が使われ、他社との差別化を図っています。
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携帯電話などもカラフルですよね。メタリック調で高級感があります。 |
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その他にも、建築物の建材、家具などのクリアー塗装、豪華客船などの船舶、ブルドーザーやクレーンなどの機械設備にも使われています。目的は防錆、防護、という劣化を防ぐ「モノの保護的機能」なのですが、「安全」や「標識」等の視認性の目的も同時にあります。また車両などは、塗料・塗装により、高級感をより出すことで「その色」が商品購入の決め手になってきているのは面白いところです。
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それは確かにありますね。この色はこの車種にしかない、といった点が消費者側の選択の決め手になっているようです。 |
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それによってよりモノの付加価値が出て、収益が少しでも上がる、と
いう点が、各企業、ねらっているところですね。 |
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ところで、日塗工さんが2年ごとに出されている「色見本帳」はとても有名で、読者も関心が深いと思うのですが・・・。 |
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建築用、工業用、重防食用と、用途はさまざまです。色の選定において「数値化・数字の標準化」をしてある点は、使い勝手を考えてのこと
です。
ひとえに「赤」といっても、赤に対する認識は人それぞれのところがあります。でもこの色見本帳ですと、数字・番号によって色相が明確になるので、共通認識を持ちやすい点が特長かと思います。 |
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欧州などでは、建築物に原色系をつかったものも見受けられます。日本の場合の配色はいかがですか? |
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これは、世界的に文化や慣習、気候などでも大きく異なります。日本の場合は、住宅には低彩度の色合いが多く用いられます。これは、SD法などでも「住宅」に関するイメージは「安らぎ」「落ち着いた」というものが多く、それを形にするとやはり低彩度となります。
無難な配色でまとめられ、面白くない、と感じられるかもしれませんが、公共性に配慮していくと、統計や傾向からはこう導き出されます。およそ80%の住宅に、低彩度のベージュやグレーが使われています。どうしても原色系を使いたい場合は、窓枠や玄関まわりなどアクセントカラーとして使用するケースが多いですね。
また、戸建住宅の街並みと、マンションなどの集合住宅では、規模や配色設計も異なってきますので、住民・施工側・色彩提案側の綿密な打ち合わせが必要です。 |
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カラーコーディネーター環境色彩に、まさに通じるお話です。街づくり、都市景観において色彩のあり方は重要です。カラーコーディネーター検定試験対策のセミナー開催やグッド・ペインティング・カラー賞など、色彩に関する分野においても日塗工さんは、20年にわたって活動されてきました。また、この春にはついに1級環境色彩のテキストがいよいよ改訂されますね。 |
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日塗工も東京商工会議所と共に、カラーコーディネーター検定の普及、育成に尽力してまいりました。石井先生にも毎年サポートセミナーの講師をお願いしておりますが、環境への意識が高まっていますので、皆さんにぜひ受験していただきたいところです。
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今年、私の会社で正社員の新卒募集をかけました。「色彩」「カラーコーディネーター」等の文言を入れたところ、予想以上に女性の応募が多かったです。潜在的なニーズを感じました。 |
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おそらく皆さん、今はまだ「色彩」から「塗料」へ至る距離を遠いと感じていらっしゃるのではないかと思います。ですから、その「距離」を縮めていく必要がありますね。
しかし、一方では、セミナーは圧倒的に女性の参加者が多いですし、エコプロダクツ展、DIY展といったイベントでも、女性を多く見かけます。インテリアやエクステリア、キッチン周りや住宅のコーディネート、リフォームといった分野は、女性のほうが、より興味を持たれているのではないでしょうか。
そういった興味を持っている方の潜在需要もあるでしょうし、また資格保持者の活躍の場も、塗料関係を含め、まだまだあると思います。
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そのような方でしたら、当社ならすぐに採用します(笑)。掘り起し活動は大事ですね。日塗工さんでは、内装塗替支援などの活動も行っていらっしゃいますよね。 |
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今、SNSやネットの普及により、「自分の家をこう模様替えした!」という情報がどんどん発信されています。DIYやガーデニング、リフォームブームで、「自分でできた!」という達成感がいいのかもしれません。
日塗工でも、初めて塗装に挑戦する方などに向けて、家具や自転車の塗装の仕方をわかりやすく解説したパンフレットを作成したり、教育施設や公共の建物等の内装塗替の支援を行ったりしています。この内装塗替支援キャンペーンでは、初めて塗装した方から「塗装の良さ、おもしろさに気づいた」という感想もいただいています(詳しい内容はホームページに掲載しています)。
身近なものから塗料に携わっていただけるのは喜ばしいことです。塗料業界としては、そこから色彩に興味を持って活躍される方が出てきてほしいと願っています。
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