eco検定(環境社会検定試験)とは

SDGsで「持続不可能」から「持続可能」な世界へ(後編)

大東文化大学 社会学部社会学科 教授

鶴田 佳史 さん

 2030年までに世界の課題を解決し持続可能な社会の実現を目指すSDGs(持続可能な開発目標)が2015年9月に国連で採択されました。SDGsの達成に向けて私たちに何ができるのでしょうか。環境経営を専門とし、「eco検定アワード」審査委員長を務める鶴田佳史・大東文化大学社会学部社会学科教授にお聞きました。その内容を2回に分けてご紹介します。

前編はこちら

 

鶴田佳史(つるた・よしふみ)

大東文化大学社会学部社会学科教授。相模女子大学大学院社会起業研究科非常勤講師、社会構想大学院大学コミュニケーションデザイン研究科客員教授。国土交通省「日ASEAN 交通連携環境行動計画に関する検討会」委員、環境省「コベネフィット型温暖化対策・CDMの推進に関する検討会」委員、東京商工会議所「eco検定アワード」審査委員長等を歴任。

SDGsをビジネスの選択と集中の指針に

―国連は、企業をSDGs達成に向けた実施主体の一つに位置付け、イノベーション創出に期待しています。一方で、企業にとってなぜSDGsが重要なのでしょうか。


鶴田:「不確実性が高いところにどう対応するか」は、ビジネスの基本です。SDGsは、ソフトローを含めた将来的に規制がかかる分野を示しています。SDGsには、さまざまな環境課題・社会課題の要素がありますが、これらは将来的なリスクであり、選択と集中の指針になるともいえます。その中でも、気候変動、生物多様性、サプライチェーン上の問題は顕在化してきています。

SDGsをリスクと機会の方向性を提示するものとして考え、「やってはいけないことが分かり」「失敗から遠ざかる」ための経営要因として捉えることです。企業がSDGsに対応することで企業自らの持続可能性が高まるとともに、企業がその社会責任を果たし、「持続不可能な世界」という人類の失敗からも離れることができます。

当然、企業の存続にもかかわってきます。リーマンショック以降、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が拡大していますが、企業の社会責任として社会性を持った行動が求められています。

ビジネス環境が変わっていくなかで、リスクと機会を逃さないようにするには、社会に目を向けることが必要です。SDGsにはリスクと機会が提示されていますから、経営者の意識改革のツールにもなります。

SDGsは未来志向ですので、SDGsに取り組むということは、「どういう未来にしたい」のか、意思決定して選択していくことだと思います。

日本政府は2022年2月、新しい資本主義実現会議のワーキンググループである「非財務情報可視化研究会」を発足しました。この可視化は人的資本に関することが中心ですが、ESG情報のように非財務情報の開示に取り組むことはますます重要になってきます。

このままでは間に合わないという危機感が経済界にもあります。そして万が一、SDGsを達成できなくても、すべてがムダになるわけではありません。まずはやってみることが大切です。

フィールドワークでの石積み。世界遺産・五箇山にて



―具体的にどのように行動していったら良いでしょうか。


鶴田:まずはSDGsに示されている環境課題と社会課題の理解を進めていただきたいです。そのためにも、必要最低限の知識を得られるeco検定が活用できます。

SDGsに真面目に取り組み、情報公開することで、優秀な人材が集まってくるという側面もあります。女性が活躍する企業は業績が良いというデータもあります。

当然、不満が多いところよりも、未来への希望が持てる職場の方がパフォーマンスは上がります。さらに正しい社会に対する理解を持った人たちが増えれば、正しい情報が集まります。例えば、人権に関する訴訟も避けることができるでしょう。

情報の受け手のリテラシーも高まっていますから、非財務情報を発信するということは、ある意味リスクでもあります。SNSが発達している現代では、「SDGsウォッシュ」的な行動をすれば、すぐに公になってしまいます。

日本企業は真面目なので、「SDGsウォッシュだと評価されるのが怖い」という思いもあるかもしれませんが、SDGsの達成状況を数値で示す「SDGsインデックス・スコア」を参考にしながら活動することで、理解不足による誤解は避けられるのではないでしょうか。少なくても企業は取り組みの根拠を示すことができます。

情報開示する前にリスクを低減できるかがカギになります。そのためには「正しい理解」と「対話」が重要なのです。



エコピープルが社会を変えていく

―東京商工会議所は2008年から毎年「eco検定アワード(※)」を開催していますが、そうした場を活用することもできますね。


鶴田:企業・組織の中にいながらもエコピープル(eco検定合格者)として、外部の人たちと情報交換することは、SDGsにかかわるコミュニケーションリスクを減らすことにもつながります。

エコピープル同士の交流や「eco検定アワード」に参加するということは、理解が深まると同時に情報開示のリスクを避けられます。自社だけの視点だけではなく、外からの視点を得ることは、より良い情報開示につながるのです。

さらに「eco検定アワード」に応募すると、外部の視点で活動内容を評価してもらえます。環境問題や社会課題への取り組みは、良いことをやっているつもりでも、それが良いのかどうか分からないときもあります。自分がどのレベルなのか、分かりにくいのです。

歴史ある東京商工会議所という組織が環境活動を評価することは、信頼性の担保にもなります。評価されればモチベーションの向上にもつながります。ほかの取り組みを知ることで、刺激や新たな気付きにもなります。情報発信することで、情報が集まってくるという良い循環も生まれます。

―SDGsでは個人にできることもあるのでしょうか。


鶴田:個人は、生活者という立場、所属する組織の一員という立場があり、それぞれできることがあると思います。

AI(人工知能)が発展し、プログラミング教育を受けた世代が育っています。2020年にはプログラミング教育が小学校で必修化されました。中学校や高校でもプログラミング教育が始まっています。大学でも、データサイエンス教育の取り組みが増えています。

そうした世代が、SDGsや環境問題に対し、科学的根拠に基づいた判断ができる人たちになっていきます。

―目標12「つくる責任 つかう責任」では、企業には持続可能な製品・サービスを提供し、消費者には持続可能な消費をすることを求めています。


鶴田:消費者という立場では、エコラベルやフェアトレードラベルなどを判断材料にして、環境や社会に配慮した製品を選択することができます。企業や行政には、判断できる情報を発信していくことが求められます。

すべての製品・サービスがサステナブル(持続可能)であるというのが理想的ですが、実際には難しいので、消費者は意識的に選択するということが重要です。可処分所得が低下しているなか、「買う」という選択ができなくても、「持続可能な選択肢を選ぼう」という意識が大事です。

つまり、「100点を取らなければいけない」のではなく、置かれている状況のなかでの最善の選択をすれば良いのです。持続可能な世界実現のために、意識的に行動することが重要です。100点を取れなくても、知識と理解を持つことが重要なのです。

一方で、チェンジメーカーとして、持続可能な選択を常に行い、環境課題・社会課題について責任ある行動をする人がいるからこそ、社会が変わっていくという側面もあります。だれかがどこかで突破しないといけないのです。

その意味では、エコピープルは、持続可能な世界実現のためのロールモデルとなる存在です。エコピープルが情報発信していくことで、こういう生活や選択肢があるということを提示できます。

そうしたエコピープルの活動をサポートするのが「eco検定アワード」ではないでしょうか。エコピープルの活動を顕彰し、広く周知することで、その輪が広がっていくことを期待しています。



(※)「eco検定アワード」とは

東京商工会議所は2008年から毎年、他の模範となる環境活動を実践したエコユニットの実績を称える「eco検定アワード」を実施しています。優れた実績を顕彰・周知することで、より多くの企業や団体、個人が、積極的に環境に関する知識を身に付け、実際にアクションをおこす一助としてもらうことを目的としています。

<参考>https://kentei.tokyo-cci.or.jp/eco/lp/people/award/index.html