eco検定(環境社会検定試験)とは

自治体との連携、eco検定を通じた環境経営に取り組む

東急バス株式会社

取締役社長 古川 卓さん

東急バス株式会社

東急グループの都市開発に伴う地域の基幹インフラを支えるべく、1991年に東京急行電鉄株式会社(現 東急株式会社)のバス事業を継承、バス専業会社として営業を開始。2024年4月には事業全体の効率化に向け東急トランセを吸収統合し、新生 東急バス株式会社として新たなスタートを切った。
同社は、東急グループの一大ターミナルである渋谷周辺を拠点に都市型バス事業者として事業を展開。東京城西南地区、川崎、横浜など多摩田園都市の都市開発に合わせた路線を展開している。

 

 

 

地域の基幹インフラを支え、地域と一体となって持続可能な社会づくりを進めるためには、路線バス車両をより低公害で低エネルギーなものにすることが求められている。そこで同社では全従業員が一丸となって環境への取り組みを推進するため、目黒区の助成事業を活用し、社員の「eco検定」受験を会社として推進。
東急グループ全体で取り組む「環境ビジョン2030」の達成、その先にある2050年カーボンニュートラルの実現に向けた省エネルギー・省資源・低公害対策など自然環境への負荷低減への現状と展望を古川 卓・取締役社長に聞いた。

 

 

東急グループの掲げる「環境ビジョン」実現を目指して

 

キャプション
東急バスの古川 卓・取締役社長


 

―持続可能な社会づくりのため、基幹インフラであるバス事業は、環境への対応が重要かと思います。事業のあり方の見直しも必要になってくるのではありませんか

当社は東急グループの一員として、グループが掲げる「『環境ビジョン2030』~誰もが持続可能な社会と地域環境の再生に貢献できるまちづくりを目指す~」を達成できるよう、取り組みを進めているところです。

当社にとって一番大きな課題は、路線バス車両の運行に伴う二酸化炭素(CO₂)排出量の削減です。バス車両はディーゼル車が中心のため、どうしても排気ガスに含まれるCO₂を出し続けてしまいます。ただ、誤解を恐れずに言えば、乗用車何十台分のお客さまを一度に運べるため、ディーゼル車の中でも環境には比較的優しい乗り物といえます。とはいえ、自然環境への負荷低減を考えれば、EV車や水素を使った燃料電池車といった低公害・低エネルギー路線バス車両への変革が必要です。

当社が現在所有するバスは約900両あります。そのうち、EVバス18両(2025年度内に6両導入予定)、燃料電池バス2両、ハイブリッドバス84両(連節バス6両を含む)を導入しています。また、車両だけでなく、バイオ燃料の使用にも取り組んでおり、都内2営業所で使用する軽油の一部にバイオ燃料を使っています。

改正省エネ法に、2030年度までに保有台数の5%を非化石エネルギー自動車へ更新するとありますので、その目標に向けて努力しています。

 

―EV車両は当然、定期的に充電が必要になります。運行する多くのバスを支障なく充電するのも大変ではありませんか

当社は現在、東京都目黒区や世田谷区等において、地域の路線バス全体の約9割を担っています。また、川崎市や横浜市を通る東横線、田園都市線沿線の住宅地などにおいても、地域を運行する路線バスとして揺るぎないトップの存在を維持しており、お客さまに支えられながら安定した事業運営を続けています。

支えてくださるお客さま・地域の皆様のためにも、地域における持続可能な社会づくり実現に向けて尽力しておりますが、取り組みを進めていくにあたっては、課題も存在します。

例えば、当社の事情として、車両の基地である営業所が都心部に集中しており、かつ住宅街の真ん中にあるということで非常に手狭なため、EV車両用の充電器を複数置く場所がありません。本来であれば、営業所に帰ってきたバスを夜間に順番に充電していく必要がありますが、ぎっちり停まっているので動かすこともままならないのが現状です。

また、複数台以上の充電器を設置する場合には、キュービクルという物置小屋程度のスペースの確保も必要になってきます。つまり、EV車両を増やすには合わせて、車庫用地も確保しなければならず、ハードルが高いのが実情です。

 

キャプション
EVバス、燃料電池バスなどの環境対策車両を導入し、地域における持続可能な社会づくりに取り組む


 

自治体と連携した、街づくり×環境配慮の実行

―環境に配慮したグリーン経営に長年取り組まれています。具体的にどのような内容でしょうか

安全・安心な街づくりを東急グループとして進めていくなかで、脱炭素、循環型社会の形成は重要なテーマとして掲げられています。

「公共交通指向型都市開発(TOD)」が、東急のまちづくりの根本的な考え方のため、その考えに基づいて環境についての取り組みは続けていかなければなりません。

これまで、当社では2005年からグリーン経営認証(公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団)を取得し、エコドライブ運動やアイドリングストップなどの取り組みを継続しております。具体的には、毎年11月を「エコドライブ強化月間」に位置付けて、アクセル・ブレーキの踏み方やアイドリングストップ装置の活用で燃費がどの程度変化するかを可視化するなど、エコ意識を高めています。

 

―今後さらに取り組みを進めるにはどのようなことが必要でしょうか

今後も環境に配慮した経営を推進するとともに、持続的に事業を展開するためには、自治体との連携がとても重要になります。
社内には、喫緊の課題として公共交通であるバス事業をいかに維持していくかという共通認識があります。例えば、地域におけるシルバーパスのあり方は、自治体との連携が不可欠です。当社が事業展開するエリアの自治体はいずれも、脱カーボンシティの取り組みに力を入れており、環境課題解決の観点からも、より一層、自治体と力を合わせていかなければならないと考えています。

 

 

 

「eco検定」で社内の環境意識を共通化。自治体の助成も活用

―eco検定は、古川社長をはじめとする幹部社員から受けられました。eco検定の受験に至った経緯を教えてください。

環境への取り組みを継続・発展させていくためには、持続的な取り組みと全従業員への教育・指導が重要と考えていました。そうした中、目黒区が区内事業者への環境社会検定試験(eco検定)助成事業を始めたことを知りました。

環境経営の取り組みには自治体との連携が重要であるとの認識のもと、当社は従前から目黒区と深い関係性を構築していました。例えば、目黒区のEVバス「さんまバス(東部地区地域交通)」は、当社の目黒営業所が担当するなど、日頃から区と連携しながら運行を行っています。
また、目黒区では、2050年ゼロカーボンシティの実現に向け、再生可能エネルギー設備の設置や事業者の脱炭素化に積極的で、区民や事業者の意識啓発も熱心です。当社もその環境政策に賛同し、東急グループの一員として、積極的に取り組んでいます。

『eco検定』は、複雑な環境問題を幅広く学べる環境教育の入門編として従業員の環境知識の定着・共通認識に向けて最適であると考えました。加えて、目黒区より費用の一部を助成していただけるので、まずは幹部からと、私をはじめ、管理職から検定試験に挑戦し、現在はマネジメント職以上の52名が取得済みです。

 

キャプション
落語「目黒のさんま」の舞台を運行ルートとする「さんまバス」の運行など、積極的に目黒区との連携を図っている


―受験してみてどのような実感がありましたか

私自身はIBT方式を選択し、会社の会議室で受験しましたが、とても快適に受験できました。また、自分自身では、環境については割と関心を持っていたつもりですが、受験を通じて、環境問題を巡る動向やポイントについて知ることができました。
特により理解が深まったのは、歴史的な背景です。地球温暖化対策のポイントになった世界会議で、何が論議され、どのような経緯で環境への取り組みが変わってきたのかを、様々な視点で把握できるようになったので、受験してとても良かったなと思っています。

バス業界で必要な資格には、大型自動車第二種免許や、整備士、危険物、運行管理者、安全性に関わるもの等、様々な資格があります。
従業員には、自分の業務に関わる知識以外のことも、リスキリングを意識して学習してもらいたいと思っており、会社としても様々な資格の取得支援に取り組んでいきたいと考えています。
その中の1つに環境知識の習得としてeco検定も入れていき、会社全体でエコ意識を醸成し、全社員が同じ方向を向いて、環境への取り組みを進めたいと考えています。

 

 

持続可能な会社経営に向け、「環境」が次世代をつなぐ

 

キャプション
東京都市大学と連携し、「科学体験教室」を実施する等、次世代の環境意識の向上を図っている


 

―環境への貢献は、若い人材の育成にも通じるとお聞きしました

最近では、この猛暑が異常気象と言われていますが、もはや異常ではなく毎年のことになってきています。そうした中、従業員、特に影響を受けるバス乗務員や整備士など、現場の従業員の働く環境改善に対して進めていくとともに、eco検定の受験奨励など当社が環境課題解決に向けて行っている取り組みも社内でPRしていきたいと考えています。
実際、私が現場に行って従業員1人ひとりにしっかり伝えていくことを実践しているところですが、意識が浸透していくのを実感してきているところです。

近年、若い人たちの方が環境問題に対する関心があるのではと非常に強く感じています。実際、採用面接でも学生から環境関連の質問がかなり多く、環境問題を意識しない会社は、会社選びの候補にも挙げてもらえないのだと感じています。
一方、社内向けにも真剣に環境問題に取り組んでいる企業であること、そうした会社に勤めているという自負が離職防止にもつながり、さらに、若手社員のメンバーから今後、環境問題に関心を強く持つ、経営判断のできる旗振り役となる人財が育っていくことを強く願っています。

環境問題や、環境を強く意識した経営の追及に限りはありません。
常に環境問題を念頭に置いた上で今後の事業計画、事業展開を図っていくことにより、当社の事業自体の持続性、サステナビリティにも繋がっていくと期待しているところです。

企業概要

会社名 東急バス株式会社
所在地 東京都目黒区
創 業 1991年5月21日(登記)
資本金 1億円
従業員数 2,427名(2025年3月31日現在)
URL https://www.tokyubus.co.jp/

※ 掲載内容は2025年9月取材時のものです。