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長岡市、eco検定を地域脱炭素の推進力に
長岡市
産業イノベーション課 課長 門脇亮さん
産業イノベーション課 係長 笹原康司さん
産業イノベーション課 主任 吉田真優さん
長岡市
新潟県のほぼ中央に位置し、約25万3000人の人口は県内では新潟市に次ぐ。国内最大級のガス田があり、エネルギー産業や製造業が盛ん。2023年7月にゼロカーボンシティを表明し、再生可能エネルギーの導入をはじめとする脱炭素施策に取り組む。
新潟県長岡市は、産業界の脱炭素化を目指し「長岡市省エネ・再エネ産業振興プラットフォーム」を組織している。2024年秋からは長岡商工会議所と連携し、市内の事業者を対象にeco検定の受験料助成を始めた。地域脱炭素にeco検定はどのような役割を果たすのか、商工部産業イノベーション課の担当者3名に伺った。
「脱炭素」で地域産業の競争力を高める
―2022年7月に「長岡市省エネ・再エネ産業振興プラットフォーム」を設立しました。その概要と目的を、改めて教えてください。
門脇さん:
本プラットフォームは、2050年カーボンニュートラルの実現に向け「脱炭素化」の社会的要請が高まるなか、産業界の脱炭素化を支援し市場での競争力を高める目的で設立しました。
活動内容としては、産学官金の連携のもと「脱炭素」を身近な自分事と捉えていただけるよう、先行事例の紹介や課題の共有、解決に向けた勉強会、意見交換などの場を設けるほか、省エネ・再エネに関する最新情報の提供などを行います。
2024年度は情報交流会や脱炭素経営について学ぶセミナーなどのイベントを3回開き、最も多い回では会場・オンラインを合わせて100名近くが参加しました。
―産業界を対象にしたプラットフォームとのことですが、設立の背景にはどのような課題があったのでしょうか。
門脇さん:
プラットフォーム設立年の2022年はウクライナ戦争による燃料費や物価の高騰があり、製造業をはじめ長岡市内の多くの事業者も影響を受けました。一方で2050年カーボンニュートラルという大きな潮流があり、この流れに乗ることで困難な局面を乗り切る機会につなげられないかと考えました。
2021年に市内の約280事業者に行ったアンケートでは、半数以上が「カーボンニュートラルについて具体的な予定はないが、興味がある」と回答し、関心の高さが窺える結果となりました。これを受けて取り組みを前進させる仕組みの必要性を感じ、長岡商工会議所と連携しプラットフォームの設立に至りました。
地域金融機関が強力な推進役に
―2025年11月現在、プラットフォームの構成団体は43団体になったそうです。どんな企業・団体が多いのでしょうか。
笹原さん:
製造業、エネルギー、サービス業など多岐にわたる業種が参画しています。他には市のモノづくり産業の活性化を目指すNPO法人・長岡産業活性化協会「NAZE」、国立大学法人・長岡技術科学大学、経済産業省関東経済産業局、自治体からは新潟県も構成員になっています。
冒頭で門脇が「産学官金の連携」とお話ししましたが、「金」つまり金融機関が参画していることは大きな強みだと思います。特に、地方銀行は日頃から市内事業者との関わりが深く、幅広い企業に声をかけたりセミナーの企画や周知を一緒に行ったり、プラットフォームと事業者をつなぐパートナーとして強力な役割を担っています。
eco検定を入り口に脱炭素への関心を高める
―2024年秋から、市内の事業者を対象にeco検定の受験料を助成する事業を始めました。
門脇さん:
助成事業はプラットフォームと商工会議所が連携した取り組みで、市内事業者の従業員がeco検定を取得した際に、1人あたりの受験料5,000円(試験実施回ごとに1社あたり上限50,000円)を助成します。
現在は他にもさまざまなサステナビリティ関連の検定制度がありますが、約20年という歴史と知名度の高さからeco検定を助成対象にしました。商工会議所や市内の事業者から「受験したことがある」、「合格した」といった声を聞く機会も多く、身近なところにも検定が浸透していると感じています。
「長岡市が勧めるなら受験してみようか」という具合に、eco検定を入り口により多くの事業者が脱炭素への関心を高める流れを作りたいという狙いもありました。日々の業務に追われて長期的な取り組みにリソースを割けない事業者が大部分というのが現状ですが、取得を通して少しでも意識が変わることが変革につながる一歩になればと考えたのです。
J-クレジット事業に取り組む市職員も受験
―事業者がeco検定を取得するメリットを、どのように考えていますか。
門脇さん:
脱炭素への意識を高めて「自分ごと化」できることに加えて、取り組みを進めるために必要な知識が身に付くこともメリットだと考えています。脱炭素をめぐる動きは目まぐるしく、「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」のような新しい動きも次々に生まれています。これらを理解するのに、eco検定の勉強は最適です。
実は、長岡市の職員の中にもeco検定の取得者がいます。市は脱炭素を通した産業振興策として、J-クレジットの活用に力を入れています。これは、市内事業者が太陽光発電の導入によって削減したCO2を市が取りまとめてクレジット化するもので、制度を運営する市として知識を底上げしようということで受験しました。今後各所で、こうした需要は高まっていくでしょう。
2050年カーボンニュートラルの実現を目指す。市内各所には太陽光パネルを設置
―助成事業に対する問い合わせや反応など、感じている手応えはありますか。
吉田さん:
脱炭素に関する知識をアップデートするために、毎年のようにeco検定を受験している事業者がいらっしゃいます。その担当者から「受験勉強が学びの機会になっており、助成事業はありがたい。得た知識をどう事業に活かすかはこれからの課題だが、従業員の視座が上がったことで可能性が広がった」いう声をいただきました。
eco検定の取得が、脱炭素を推進する「人づくり」に重要な役割を果たしているのです。事業者が行動を起こすには従業員一人ひとりの意識改革が必要不可欠で、検定がその第一歩になっているのだと改めて感じさせられました。
脱炭素の成功事例を示し活動を広げたい
―さらなる助成事業の拡充など、今後の展開について教えてください。
門脇さん:
2025年でプラットフォームを立ち上げて3年、eco検定の助成事業を始めて1年になりますが、もっと取り組みを強化し広げなければならないと感じています。自治体はプラットフォームのような仕組みの提供はできますが、地域脱炭素は事業者が主役となって自律的に取り組んでこそ前進するものと考えています。
まずは大前提として、気候変動の脅威は日本でも顕在化しており、脱炭素なしに持続可能な経営はあり得ないという危機感を共有することが大切です。実際にここ数年は、長岡市でも夏のゲリラ豪雨が頻発したり冬の雪の降り方が一定でなくなったり、異常な変化を肌で感じられるようになりました。
これからの生き残りにはBCP(事業継続計画)をはじめとする対応策は当然必要でしょうし、そこから一歩踏み込んで脱炭素が事業者の成長や価値向上につながるという道筋を示すことも一つの鍵になるでしょう。
笹原さん:
プラットフォームでは2026年3月にイベントを企画しています。そこでは太陽光発電や地熱をはじめとする再生可能エネルギー、LED照明、エコ建築など、さまざまな方向から脱炭素に取り組む企業や団体を招く予定です。
イベントの場で、eco検定の活用事例や脱炭素が事業価値を向上させた事例の紹介もできれば良いですね。「あそこはこうした」という具体的な事例があると取り組みを身近に感じられて、行動に移しやすいのではないかと思います。
―東京商工会議所では、環境活動に取り組む企業・団体を顕彰する「eco検定アワード」を実施しています。受賞者からは、アワードをきっかけに企業評価が高まり活動の幅が広がったといった声もいただいています。
門脇さん:
2026年には、私たちの部署が商工会議所と同じビルに移転し、金融機関も含めて市の産業部門が1カ所に集約される予定です。これを機により一層活動を活発化させ、他の自治体に参考にしていただけるような長岡発の事例を紹介できるようになりたいと思います。
――長岡市が「産学官金の連携」を軸に気候変動対策を進め、その中でeco検定を意識改革のための学習ツールとして活用して頂いていることがよく理解できました。こうした取り組みが長岡市に根づき、やがて全国の脱炭素のモデルとして広がっていくことを期待しています。
本日はありがとうございました。
【参考:eco検定概要】
eco検定は、環境と経済を両立させた「持続可能な社会」の実現に向けて、環境に関する幅広い知識を身につけ、環境問題に積極的に取り組む「人づくり」を目的に2006年に創設されました。ビジネスパーソンから次代を担う学生をはじめとする、あらゆる世代の方が受験し、受験者数は延べ66万人、合格者(=エコピープル)も39万人を超えています(2024年12月現在)。
「合格して終わり」ではなく、検定試験の学習を通じて得た知識を「ビジネスや地域活動、家庭生活で役立てる=現実の行動に移す」ことを促しています。毎年、エコピープル等の活動を表彰する「eco検定アワード」等も開催。
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※ 掲載内容は2025年12月取材時のものです。