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家庭からの廃油リサイクルを「当たり前」に、資源循環社会への挑戦
植田油脂株式会社
代表取締役社長 髙橋史年さん
総務経理部部長 松本奈美さん
植田油脂株式会社
1951年創業、1966年に同社設立。廃食用油脂や食品残渣の回収を起点に、リサイクル処理から再生資源の販売までを一貫して行っている。飲食店や食品工場などから排出される使用済み油脂や揚げかす、食品残渣を回収し、再資源化を推進。回収した油脂や残渣は用途に応じて再利用され、資源循環型社会の構築に貢献している。こうした取り組みが評価され、「eco検定アワード」では、2021年および2024年に奨励賞、2025年に大賞を受賞した。
食用油加工メーカーの植田油脂株式会社(大阪府大東市)は、廃食油リサイクルの先駆者として、70年以上にわたり廃食用油脂の回収から再資源化までを手がけてきた。2018年からは社員の環境知識向上を目的にeco検定を導入し、独自の手当制度などを通じて理解と実践を着実に重ねている。こうした取り組みが評価され、2025年には「eco検定アワード」で大賞を受賞した。同社の髙橋史年・代表取締役社長、松本奈美・総務経理部部長に、eco検定を軸とした人材育成の狙いや、循環型社会の実現に向けた展望について聞いた。
目次
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■創業75年、「油を無駄にしない」が原点
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■パートナーシップ構築継続で回収スポットは500カ所に
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■油が付着したペットボトルも「水平リサイクル」
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■「eco検定」で得た環境知識を社会人の武器に
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■「eco検定アワード」がセクターを超えた交流の場に
創業75年、「油を無駄にしない」が原点
―70年以上にわたり、廃食油の回収・リサイクル事業に取り組んでいます。どのような経緯でスタートしたのでしょうか。
髙橋さん:
当社の創業は1951年で戦後間もなく、モノが本当にない時代でした。当時、油は貴重な資源で、「油を捨てるなんて許されないこと」と言われるような空気さえあったと聞いています。
創業当初は菜種油の搾油加工を手がけていましたが、大手企業の参入が進む中、創業から2年ほどで事業の方向転換を図りました。そこで、当時はまだ珍しかった揚げかすや天かすを回収し、そこから油を搾る事業を開始しました。今でいうリサイクルの原点だったと思います。
当時は油を無駄にしないのが当たり前だったので、天かすから油を取るのも自然な発想でした。結果として、それが現在の当社のルーツである資源循環につながったということです。その後、大阪市内でも油を回収して交換する文化が広がり、徐々に廃食油のリサイクルを専門とする事業へと発展していきました。
現在では、大手チェーン店や飲食店、スーパー、コンビニ、ホテル、テーマパークなどから廃食油を回収しています。エリアも西日本全域に広がり、業界でも有数の規模へと成長しました。
パートナーシップ構築継続で回収スポットは500カ所に
―回収した油はどのように活用されているのでしょうか。
髙橋さん:
私たちは、回収した油の活用先としてバイオディーゼル燃料(BDF)にこだわってきました。目的はCO₂削減です。10年以上前から環境ビジネスとしての評価や経済性以上に、「少しでもCO₂削減に貢献したい」という思いがありました。
バイオ燃料は、かつては市況や相場の変動、回収コストの負担などから経済合理性が見込みにくい側面もありましたが、現在では、価格も安定し、ビジネスとしても十分に成立しています。再生した油は、軽油や重油の代替燃料に加え、近年は持続可能な航空燃料(SAF)への活用も進むなど、用途が広がっています。販売先にも困らない状況です。
活用先が広がる中でも、「どれだけCO₂削減に貢献できるか」という点には、これからもこだわり続けていきたいと考えています。
―近畿エリアの回収スポットは500カ所を達成したそうですね。ここまで増やすために、どのような工夫をしてきたのでしょうか。
髙橋さん:
家庭用廃食油の回収で最も大きな課題は、いかに拠点を増やすかでした。業務用と違って、家庭から出る油は一件あたりの量が少なくなります。そのため、回収に協力していただける場所をどれだけ増やせるかが重要なのです。
そこで、スーパーの店頭だけでなく、幼稚園や学校、銀行など、業種を問わず生活動線上にあるさまざまな施設にお声がけしてきました。回収場所は近ければ近いほど利用しやすいため、マンションのごみ集積場など、生活圏により近い場所に回収ボックスがあるのが理想です。また、使用済み油をペットボトルに入れたまま持ち込める手軽さも、大きな特徴の一つです。
こうした中で重視してきたのが、SDGs目標17の言葉を借りた「パートナーシップで脱炭素を」という呼びかけです。地道に目的をお伝えし、容器の準備や費用は当社が負担することで、「気軽にSDGsに参加できる」と感じていただけるよう工夫してきました。
―回収量が多い拠点には、どのような特徴がありますか。
髙橋さん:
データを見ると、回収量が多いのはスーパーやショッピングセンターなどの商業施設です。多い店舗では月に約200キログラム、ドラム缶1本分ほどの油が集まります。これは業務用の1店舗分に匹敵する量です。
一方で、回収量が少ない拠点にも大きな意味があります。家庭の油のリサイクルを広げるうえで重要なのは、回収スポットの拡大に加え、「情報発信」が欠かせません。「家庭の油がリサイクルできるとは知らなかった」という声はいまだにあります。量は少なくても、地域の方に「家庭用油をリサイクルできる」という気づきを届ける場として、重要な役割を果たしています。
現在は500カ所を超えて一区切りとなりましたが、今後も新たな目標を掲げ、拠点づくりを続けていきたいと考えています。
油が付着したペットボトルも「水平リサイクル」
―他社にはない、御社ならではの強みについて教えてください。
松本さん:
当社の大きな強みの一つは、油が付着したペットボトルの「水平リサイクル」を実現した点です。一般的に、ペットボトルのリサイクルは、洗浄されたきれいな容器であることが前提となります。そのため、油が付いたボトルはリサイクルが難しいとして、多くの業者に断られてきました。
その結果、やむなく産業廃棄物として処理されるケースも少なくありませんでした。そこで社内で議論を重ね、賛同してくれるリサイクル事業者を地道に探し続けました。そうして当社の取り組みに共感いただけるパートナーと出会い、油も容器も再資源化する「二重のリサイクル」が可能になりました。この取り組みは自治体からも高く評価され、協定締結につながった事例もあります。
もう一つの強みは、自社オリジナルの回収ボックスです。市販の回収ボックスは1基あたり10万円以上と高価で、拠点拡大の大きなハードルとなっていました。そこで地元企業に私たちの取り組みや思いを丁寧に伝え、協力を仰いだ結果、約半分のコストで製造できるようになりました。
―SAFでの活用をはじめ、家庭用廃食油に注目が集まっています。今後、どう拡大していきますか。
髙橋さん:
業務用の廃食油はすでに取り合いの状況にありますが、家庭から出る油の多くは今も焼却処分されています。SDGsの観点からも、これまで捨てられてきた資源をリサイクルできれば、環境にも社会にも大きなプラスになります。関わる人すべてにとって、ウィン・ウィン・ウィンになる取り組みだと考えています。
一方で、拡大に向けた課題は「手間をどう減らすか」です。家庭用廃食油は業務用と違って一件あたりの量が少なく、容器の選別や開梱、ペットボトルから油を移し替える作業などにどうしても人手がかかります。
今後さらに回収量を増やしていくためには、作業の簡素化や効率化が不可欠です。将来的にはAIやロボット技術の活用も視野に入れながら、業務プロセスそのものをアップデートしていく必要があると考えています。
私は、家庭用廃食油の回収が将来の「当たり前」になると信じています。2035年ごろには、日本全国で家庭の油を持ち込む時代が来るでしょう。
「昔は油を捨てていた時代があったらしい」と言われる社会になっている--。そんな未来を思い描きながら取り組んでいます。
「eco検定」で得た環境知識を社会人の武器に
―「eco検定手当」を導入するなど、受験推進に力を入れています。背景や目的について教えてください。
松本さん:
2018年からeco検定の導入を本格化させました。廃食油のリサイクルを通じて循環型社会へ貢献する私たちにとって、社員の環境意識を高めることは不可欠な取り組みです。eco検定への挑戦は、常にアップデートされる最新の環境問題を学ぶ機会と捉えています。
導入当初は部下に背中を見せるという意味を込めて、管理職が先行して受験しました。まずはリーダー層が一定の知識レベルを持つべきだと考えたからです。
一般社員については任意受験としていますが、会社による受験料や教材費の補助、社内報での啓発、合格者の体験談共有など、積極的な推進活動を展開してきました。ただ、それだけでは受験者数は思うように伸びませんでした。
そこで、社員のモチベーションをより高めたいと考え、2023年に「eco検定手当」を新設しました。合格時の一時金ではなく、月額1000円を継続して支給する仕組みにしたのが特徴です。毎月の給与に反映されることで、資格取得がきちんと評価されていると実感できますし、環境への意識を日常的に持ち続けてほしいという思いも込めています。
この制度導入をきっかけに、受験者数は一気に増え、社員全体で合格者数が50%を超えました。不合格になっても何度も挑戦する社員が増え、部署ごとにオンラインで教え合う勉強会も生まれています。社員が互いに教えあうことで、会社全体の環境知識の向上や定着にもつながり、好循環につながっています。
―一時金ではなく、「手当」という形にしたのは、大きな経営判断だったのではないでしょうか。なぜそこまで踏み込まれたのですか。
髙橋さん:
正直に言えば、最初は「自分も合格しています」とアピールしたい気持ちから始めた取り組みでした。しかし実際に学んでみると、私自身にとって非常に大きな学びがありました。取引先と環境問題について話す際にも、きちんと議論ができるようになり、知識の幅が明らかに広がったと感じたのです。
その経験から「これは必要なことだ」と確信しました。宣伝のためでも、自社のためだけでもありません。たとえ転職して別の業界に進んだとしても、環境問題の知識は決して無駄にならない。むしろ持っていて損のない、一生ものの知識です。だからこそ、社員一人ひとりに一定の知識を身につけてほしいと考えました。
資格取得そのものが目的ではなく、学ぶ過程にこそ意味がある。合格・不合格にかかわらず、環境を自分ごととして考える力を養ってほしい。その思いから、社内ではSDGsをテーマにした勉強会も増やしてきました。
また、今の時代、上司が「受けなさい」と強く促しにくい空気もあります。そこで給与規定の改定に合わせ、「手当」という形で制度化する決断をしました。従業員にとってはプラスになる制度であり、大きな反対もなく、スムーズに導入することができました。
―自社の成長のためだけでなく、社会全体として環境意識の高い人材が必要だとお考えなのですね。eco検定を導入されて、どのような変化がありましたか。
髙橋さん:大きな変化は、環境問題の会話のキャッチボールができるようになってきたことです。ニュースで環境問題が報じられると、それを話題に意見交換ができるようになりました。
eco検定の取り組みやアワードの受賞については、SNSや自社ホームページを通じて積極的に発信しています。特に今回の大賞については、多くの取引先から「すごいですね」と声をかけていただき、想像以上の反響がありました。
こうした実績をきちんと社外に伝えることは、企業としての信頼性向上に直結すると考えています。大手企業の取引先に対しても、「私たちはこうした環境活動に取り組んでいます」と説明できること自体が、企業価値の向上につながっています。
「eco検定アワード」がセクターを超えた交流の場に
―「eco検定アワード2025」では大賞を受賞されました。2026年1月には、表彰式と交流会を開催しましたが、参加してみていかがでしたか。
髙橋さん:
eco検定アワードを受賞された企業の皆さまは、総じて環境問題を自分ごととして捉えており、自社の事業活動のみならず地域や関係者を巻き込んだ活動をしていると改めて感じました。また、奈良県の五條高校のように、若い世代の活動にも刺激を受けました。共通しているのは、自分たちのできることを地道に取り組んでいるということだと思います。
交流会では、環境意識が高い多種多様な企業・団体の方と交流ができたことで、今後の事業活動のヒントも得ることができ、良い刺激となりました。まだ具体的な連携には至っていませんが、全国規模でさまざまなコラボレーションが生まれれば、非常に面白いと考えています。
国や都道府県、市町村といった自治体、さらには産業界も巻き込みながら、取り組みが広がっていくことを期待しています。
―今後の展望と、これからeco検定アワードへの応募を考えている企業・団体にメッセージをお願いします。
髙橋さん:
大賞受賞は、正直なところ驚きの方が大きかったです。私たちのような中小企業が、名だたる大企業と肩を並べて、大賞をいただけるとは思っていませんでした。
しかし、この受賞を一区切りと考えるのではなく、サッカーで言えば「後半戦のキックオフ」と捉えています。ここで満足するのではなく、次は他業界とのコラボレーションや、AI・ロボット技術の企業との連携など、取り組みをさらにアップデートしていきたいと考えています。
これから応募を考えている中小企業の皆さんには、私たちのような規模の会社でも、コツコツと続けていれば、こうした賞を受賞することができるということ、できることから地道に続けることが、結果につながってくるということをお伝えしたいと思います。
――企業や団体の規模ではなく、長年の地道な取り組みが評価されたと思います。東京商工会議所としては、「環境」という共通のキーワードを起点に、皆さまの取り組みがさらに広がるきっかけづくりを進めていきたいと考えています。本日はありがとうございました。
(※)「eco検定アワード」とは
東京商工会議所は2008年から毎年、他の模範となる環境活動を実践したエコユニットの実績を称える「eco検定アワード」を実施しています。優れた実績を顕彰・周知することで、より多くの企業や団体が、積極的に環境に関する知識を身に付け、実際にアクションをおこす一助としてもらうことを目的としています。
2026年も「eco検定アワード」の募集を予定しております。詳細は後日、ホームページでご案内します。
★植田油脂株式会社様は、「eco検定アワード2025」において優秀賞を受賞されました!
受賞した活動内容の詳細はこちらから
https://kentei.tokyo-cci.or.jp/eco/people/award/2022.html
企業概要
| 会社名 | 植田油脂株式会社 |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府大東市 |
| 創 業 | 1951年 |
| 資本金 | 1,000万円 |
| 従業員数 | 80名人(2025年9月現在) |
| URL | https://www.ecorica.jp/ |
※ 掲載内容は2026年1月取材時のものです。