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問題

選択肢

 X社は、大手の総合電機メーカーである。また、Y社は、X社の子会社であり、情報通信機器の製作・販売を行っている。X社は、人事交流のため、数年前から、Y社に社員を出向させている。X社とY社は、「出向契約書」を取り交わしており、Y社への出向を命じられた社員(以下、「出向社員」という)はX社の社員としての身分を有したままX社を休職して出向すること、出向社員はY社の就業規則等に従うこと、給与はX社の基準によりX社が支給すること、出向社員に対する懲戒処分はY社の人事考課を基礎としてX社が行うことが規定されている。
 Aは、平成26年4月1日付けで、Y社総務部から営業部に異動した男性社員(32歳)である。Bは、X社の営業部に勤める男性社員(45歳)であるが、同日付けで、Y社の営業部長として出向を命じられた。Aは、接待等で帰りが遅くなった日の翌日などは、いつも寝坊してしまい、同年夏頃には週1回程度遅刻するのが常態化していた。
 ある日、始業時から営業会議が予定されていたが、Aは、朝になって突然腹痛を起こしたため、会議に30分ほど遅刻してしまった。Aは、Bから再三再四「遅刻するときは始業前に必ず連絡するように。」と言われていたが、遅刻が多く電話しづらかったため、電話連絡をしなかった。なお、Y社の就業規則には、遅刻する場合に事前に連絡しなければならないという規定はない。
 ①Bは、営業会議終了後、Aを別室に呼び、一対一で、「この2ヶ月、毎週のように遅刻しているが、どういうことだ。遅刻する場合は、必ず始業時刻前に電話してくるように言っているのに、ほとんど電話もかけてこない。そんなことでは社会人として失格だぞ。」と、約10分にわたり厳しく叱責した。そして、「遅刻しないように体調管理に留意することや、万が一遅刻する場合は始業時刻前に電話連絡するよう改めることを内容とする反省文を、メールで昼休みまでに私宛に送ってきなさい。」と、反省文の提出を求めた。Aは、反省文など書きたくなかったが、Bがかなり苛立っていたことから、仕方なく提出した。
 一方、Aは営業部に異動したばかりだったので、同じ部内で営業経験の長い同僚のCに営業ノウハウを教えてもらっていた。Cは、最初こそ、同僚のAに親切に対応していたが、営業下手なAに次第に嫌気が差すようになった。
 ②ある日、Cは、Aから、「Z商事との取引がなかなか成約に至らないのでどうすれば良いですか。」とアドバイスを求められたので、「人を頼るのもいい加減にしてください。自分で考えることもできないなんて新入社員以下ですね。皆、Aさんのことを『会社のお荷物』と呼んでいますよ。」というメールを返した。その後、Cは、Aに会う度に「よう、お荷物さん。」と呼んで、周囲の人がいる前で終始馬鹿にした態度をとり続けた。Aは、このようなことを言われ傷ついたが、頼りになる人間がCしかいないので、気にしないようなそぶりをしていた。
 Aが営業部に配属されてから1年が過ぎても、Aの営業成績は一向に上がらなかった。それにもかかわらず、Aは商談が成約しないことについて、Bに言い訳ばかりしていた。そこで、Bは、Aの奮起を促す目的で、「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。あなたは会社にとって損失そのものです。あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の実績を挙げますよ。」と記載された電子メールを、A宛てに送信するとともに、CC(副送信)で職場の同僚全員に送信した。
 その後、Bは、Aに対し、「仕事ができないのは、ネクラのせいだ。もっと明るい顔をして仕事をしろ。」などと、毎日のように嫌味を言ったり、営業成績が上がらないことについて、皆の前で起立させたまま大声で叱責するようになった。
 Y社は、パワーハラスメント(以下、「パワハラ」という)に関する行動基準を定めておらず、Aから、BおよびCの一連の行為について相談を受けたにもかかわらず、特別な措置を講じなかった。Aは、Bの一連の行為による精神的ストレスによって、ひどい耳鳴りと嘔吐等の症状が生じ、平成27年10月1日付けで退職した。その後、通院治療を行っているが、精神的ストレスが持続しているため、未だ耳鳴り等が治らず、仕事に就くことができない状態にある。なお、Aは、これまでこのような精神的疾患に罹患したことはない。

下線部①および②の各行為は、パワハラに当たるか。パワハラとはいかなる行為かを述べた上で、①および②の各行為がパワハラに該当するか否かをそれぞれ、具体的に説明しなさい。【第38回 共通問題第2問1】

解答

1.パワハラの定義について  パワハラとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為をいう。

2.①について
 上記定義に照らして検討すると、Aの度重なる遅刻は、労働契約に基づく労務提供義務に反し、また、就業規則上記載されていないとしても事前連絡なく遅刻することは、職務専念義務に反するおそれがある。他方、所属長であるBが相当な限度で従業員を叱責すること自体は、違法性を有しない。本件のBは、「社会人として失格」という不適切な発言をしているものの、叱責は別室で一対一で行われていること、叱責の時間は10分程度であること、反省文も体調管理に留意し遅刻する場合は電話連絡するように是正する合理的な内容であることから、当該叱責および反省文の提出行為はBの職務権限の範囲を逸脱するものではない。
 したがって、①の行為は業務の適正な範囲を超えていないのでパワハラには当たらない。

3.②について
 上記定義に照らして検討すると、確かにCはAと同じ職場の同僚であり、CはAを指導監督する関係にない。しかし、Aは営業経験の長いCに営業ノウハウについて教えてもらっており、Cは、Aに対し、職場内の優位性を有する。そして、Cは、Aに対し、「新入社員以下」「お荷物」という人格を否定する発言や終始馬鹿にした態度を取り続けている。これは、Aが気にしないようなそぶりをしていたとしても、優越的立場にあるCによる、業務の適正な範囲を超え、Aに精神的苦痛を与える行為といえる。
 したがって、②の行為は、上記パワハラの定義を充たし、パワハラに当たる。

※参考解答例です。